JR西日本の体質に批判の中心が集まっています。

 事故の現場に居合わせながらも救助に向かわなかった職員の話などにはあきれてものも言えません(ただ、現場から遠く離れた広島などでの飲み会まで「不適切な事象」に含めるのはやりすぎの感があります)。でも誰がこのような企業体質を生み出したのでしょうか?JR職員に詰め寄る遺族の映像を見ながら、ふとそんな考えが浮かびました。

 中には不快に思う人もいるでしょうが、絶対にマスコミは採り上げないでしょうから、敢えて書いてみようと思います。

 今回の事故のことを考えるときに浮かんできたのが、先日竹ノ塚で起こった踏切事故でした。

 何故あの警手は踏切を上げてしまったのか?
 踏切を上げる前に何故運行パネルを見なかったのか?

 あの警手と、今回の運転士に共通するもの……それは「焦り」だと思うのです。

 おそらくあの警手は、日ごと歩行者からの冷たい視線に耐えていたのでしょう。作業所に怒鳴り込む輩もいたという話を現地住民から直接聞いたことがあります。

 長時間待たせるとまた歩行者から何か言われるのではないか……。

 そのような意識が警手にしみこんでいたとしたら、一概に警手や東武鉄道を責められた話ではありません。

 高見運転士は伊丹駅オーバーランを起こしたとき、何を思ったでしょうか?

 また日勤教育か……。
 もう運転台に座ることは出来ないかもしれない……。

 彼が亡くなった今、その真相を聞くことは出来ませんが、そのような焦りが速度超過につながったのでしょう。

 無論、いじめとしか思えない日勤教育を課していたJR西日本の姿勢は許されるものではありません。

 しかし、そのような企業を、今日の今日までその姿勢を改めさせることなく存在させてしまった責任は誰にあるのでしょう?

 国?
 私は責任があると思っています。
 悪辣な職員管理態勢は、実は2ch内では有名な話でした。
 マスコミでは夕刊フジぐらいしか採り上げていませんが、一般人に混じって社員が運転台背後から監視し、速度、定時運行はもちろんのこと、ハンドルの握り方や、信号喚呼の声の大きさに至るまで事細やかに採点され、何か至らぬ点があれば、即、あの「日勤教育」行き。
 言わば戦前の特高のような監視態勢がとられていたわけです。
 おそらく労組から国の方に何らかの形で話が伝わっていたはずです(もし、労組が事故発生以前に問題提起していなかったら、これも大問題だと思います)。
 それを放置していたとしたら……監督官庁の責任は全く果たされなかった事になります。
 また、北側大臣は鉄道事業者に対し、ATS-Pを含めた保安装置の設置を義務づける方針を発表しています。
 しかし、旧式ATS下での事故は今年になって今回が初めてではありません。宿毛駅に特急列車が突っ込んだ事故がありました。あの直後にも、ATSの速度照射装置の不備が指摘されていましたね。何故あのときに動かなかったのでしょうか?
 穿った見方ですが、奇しくも、今回の事故現場は北側氏の地元に当たります。
 もし自らの選挙地盤での事故でなければ腰を上げなかったとしたら、大臣にその資格はありません。 
 また、「公共」交通機関と言いながら、安全設備への投資は企業任せにするのは無責任でしょう。国による大規模な経済的支援が必要です。そうでなければ、ATS設置資金が出ないことを理由に廃線に追い込まれる地方私鉄が出てきかねません。
 
 ATSの話が出てきたので書きますが、マスコミがこれを付ければ安全とばかりに報道しているATS-Pは、決して最先端の保安装置ではありません。しかも、ほとんど報道されていませんが、あの現場ですら、旧型ATSでも十分に対応が出来るのです。地上子を追加設置すれば高速での進入は防げますし、極端な話、制限速度70km/hのカーブであれば、カーブの手前に信号機を作り、最高でも「減速」*1しか現示出来ないようにしておけばいいだけの話です*2。それだけでも、大幅な速度超過は避けられます。

 しかし。

 国やJRを責めればそれで終わりでしょうか?
 このような事故はもう起きないのでしょうか?

 皮肉なことに、JR西日本は今期の決算で史上最高益を記録しました。

 利益が生まれたと言うことは、JRを利用する利用者がそれだけ増えた、ということです。
 つまり、経済的な視点から見れば、JR西日本は世間に受け入れられ、その企業姿勢は支持されていたのです。*3
  
 我々は常日頃交通機関にどんな要望をしてきたでしょうか。

 「スピードを上げろ」
 「速度を上げろ」
 「運賃を下げろ」
 「運転間隔を詰めろ」
 「車両を新しくしろ」
 「混雑を緩和しろ」
 「何で遅れたんだ」

 大半はこんなものでしょう。
 日常的に「速度はともかく、とにかく安全運転を」と要望してきた人間はどれだけいたのでしょうか?少なくとも過半数でないことだけは確かだと私には思えます。

 安全運転の結果、遅れたら遅れたで「通勤・通学の足乱れる」とマスコミに報じられ、駅員に詰め寄る人間が毎回のように報じられますね。

 話は少し変わりますが、現に、日本航空の一連の騒ぎの中で、その一因となったのは「定時運行へのプレッシャー」でした

 そのような我々の姿勢が、会社にプレッシャーとなり、数秒の遅れでも報告させ、厳しい教育を施す状況を作り出してしまったとしたら……。

 「東武鉄道」や「日本航空」、そして「JR西日本」……安全性よりも定時性を重んじる会社を作り出してしまったのは、ひょっとしたらマスコミや、我々一般市民なのかもしれません。

 このような姿勢を、私を含めた利用者やマスコミが改めない限り、また同じような事故が交通機関で起こるような気がしてなりません。

 私は、これからは企業の安全面への投資をIR資料等で厳しくチェックしていきたいと思います。

*1:黄色+青の信号で、鉄道会社により異なるが、おおむね、制限速度75km/h

*2:京王電鉄京王線上り分倍河原〜府中間にそのような信号の例がある。

*3:民営化後のJR西日本の経営努力は、実は評論家や専門誌にはかなり評価されてきた。山手線を取り囲むように私鉄網が広がり、競合区間が少ない関東とは違い、大都市が分散し、都市間輸送が主幹となっている関西では私鉄との競争が激しい区間が多く、その多くが国鉄時代には劣勢を強いられていたが、阪神・淡路大震災を機に、新型車両――事故車両となった207系や、新快速に使われる223系等――の導入により、最高速度を130km/hにまで向上させ、私鉄とのシェアを逆転させるにまで至ったのである。その中で、安全が軽視されてきたことは残念でならない。なお、前述の評論家の中には、今回の事故直後にテレビ出演して散々JR西日本を叩いていたにもかかわらず、自らの著書で常日頃JR西日本を褒め称え、高速化への取り組みや列車設備などは関東鉄道各社も見習うべきとまで書いていた何とも変わり身の早い輩も存在することを付け加えておく。